浪漫ヲ謳エ-extend- 上演台本

 

タイトル:浪漫ヲ謳エ-extend-

作:森本聡生

男5:女1(男女比は入れ替えられる。)

上演時間:約60分

 

男1客席に座っている。男2舞台の中から出てくる。

男1 こんなにも近いんだな。

男2 何がですか。

男1 客席と舞台。

男2 ホールとかじゃないんで。

男1 あそこに落ちてきたんだよな。

男2 ええ。あそこに落ちてきたんです。

男1 即死だったのか。

男2 亡くなったのは病院に運ばれてからです。

男1 痛かっただろうな。

男2 あの高さから、あの重さのものが頭に落ちてきたら痛いですよ。

男1 遺体だけに痛いってか。

男2 いや、すんません。ほんとそれは笑えないっす。

男1 悪い。男2いや、自分こそ。すんません。

男1 あれはなんだ。

男2 あそこで照明をつけたり消したりするんです。

男1 あの人は誰だ?(スタッフさんがいた場合。)

男2 え。誰もいませんけど。ほんと冗談にならないんで。

男1 人が死んだら全員幽霊になると思うなよ。

男2 でも、こういう場所にはよくいるって。

男1 そうなのか。

男2 人の想いが交錯する場所だから。

男1 なるほど。

男2 あ、ほらそこにも(お客さんでも劇場スタッフでもいい。)

男1 落ち着け。お前は幽霊と包丁を持ったおっさんどっちが怖いんだ。

男2 どっちも怖いっす。

男1 確かに。どっちも怖いな。

男2 とにかく早く出ましょう。後は警察に任せましょうよ。

男1 事件の真相を解き明かす。それが亡くなった人に対する礼儀だろ。

男2 それ自分らの仕事じゃないです。

男1 それでもお前は記者なのか。

男2 いや、記者じゃないですし。ただの写真家です。

男1 おかしいとは思わないか。

男2 何がですか。

男1 照明機材はきっちと固定されていた。それに地震があったわけじゃない。それなのにどうして落ちてしまったんだ。

男2 人為的なミスじゃないんですか。その疑いがあったから劇場のスタッフや出演者を含めて事情聴取されたんでしょ。

男1 でも結局犯人はわからなかった。

男2 不可解な事件だって噂になってる。自分らだってその噂を確かめるためにここにきたんじゃないですか。

男1 そもそも事件自体があったのか。

男2 事件はなかった。事故ですよ。もっぱらその説が濃厚です。

男1 犯人もいない。事故の原因もわからない。ここで一体何があったんだ。

男2 わかってることは一つ。一人の人間の命が失われたこと。

男1 手がかりを探しにきた。そうだろ。

男2 そうですよ。そのためにわざわざここまで来たんです。

男1 舞台の明かりはあれで付けられるのか。

男2 劇場の人に話したら、快く協力してもらいました。警察が来るまでの40分間は自由に使っていいと。

男1 たった40分か。

男2 それだけあれば十分でしょ。さあ明かりをつけてください。

男1、照明をつける。

男2 舞台に上がる。写真を撮ったりしている。

男1、その様子を客席から見ている。

男1 どうだ。

男2 おかしいところは何処にもありませんね。

男1 客席の入り口の方へ行ってドアを開けたりしている。

男2 どうしました。

男1 いや、人の気配がしただけだ。まだ時間はあるよな。

男2 まだ大丈夫です。

男1と男2が話している後ろから女1が現れる。

女1 亡くなったんですか。

男1 ついに出た。

男2 出ましたね。

男1 塩とか持ってるか。

男2 すんません、さっき舐めてしまいました。

男1 バカ野郎、どうしてだ。

男2 汗かいちゃったんで。

女1 誰か亡くなったんですか。

男2 あなたじゃないんですか。

女1 私は亡くなってません。

男1 生きてるのか。

女1 生きています。

男2 あなたは誰ですか。

女1 人間です。

男1 これは奇遇だ。俺も人間なんだ。

女1 そうですか。それで亡くなったんですか。

男2 亡くなりました。

女1 誰がですか。

男1 それはわからない。

女1 それは本当に亡くなったんですか。

男2 あそこにある照明が頭の上に落ちたんです。

女1 それで亡くなったんですか。

男1 ああ、それが原因で亡くなった。

男2 あなたはこのあたりに住んでいるんですか。

女1 はい、そうです。

男1 今の事故の話、聞いたことはないか。

女1 そうですね。すみません。

男2 事故じゃなくてもここで誰かが亡くなったという話を聞いたことはありませんか。

女1 ありません。

男1 そうか。協力感謝する。出口はあちらだ。

男1女1を出口へと案内する。しかし女1は帰ろうとしない

女1 あなたたちはどうして誰かが亡くなったことを調べてるんですか。

男1 不可解なことが多いから。

女1 理由はなんであれ、人が死んで面白いですか。

男2 面白いわけじゃありません。

女1 それじゃどうしてなんですか。どうして人の死を調べるんですか。

男1 それが仕事なんだ。

女1 仕事だからってなんでもしていいんですか。

男2 なんでもしていいわけじゃないです。でも、誰かが亡くなって、その原因がわからない、そうなると人間は勝手に想像して、勝手な話が広まっていきます。そうならないように自分たちは真実を追求して、それを国民に届ける義務があるんです。だから面白がったり、何をしてもいいわけではないと思います。

女1 真実を知ったところで、亡くなった人は生き返らない。

男1 死んだ人の名誉を守るためだ。

女1 死んだのに名誉なんてあるんですか。どんな名誉ですか。警察みたいに仕事中に亡くなったら2階級特進するんですか。

男2 あなたの言ってる意味はわかります。でも申し訳ありません。これが自分たちの仕事なんです。やりたいことじゃなくてやらなきゃダメなことなんです。

女1 大変ですね。知りたくもないことを知らなきゃならないなんて。

男1 そういう仕事もあるが、今回の案件に関しては個人的に興味はある。

女1 どこに興味を惹かれたんですか。

男1 誰かが死んだはずなのに、誰が死んだかわからない。本当に事故があったかもわからない。それなのにこの劇場で誰かが死んだということが世間に知れ渡ってる。何かあるんじゃないか、そう思わずにいられない。

女1 何もなかったんですよ。ここで。何もなかったんです。

男2 事件も事故も。

女1 そうです。だからもう帰ってください。

男2 でも警察が来るんですよね。何もないのにどうして。

女1 警察が来るんですか。

男2 さっき劇場の管理人さんが言ってました。

女1 多分きっとあなたたちを捕まえるためですよ。

男1 俺たちを捕まえる?ちゃんとこの場所を取材する許可はもらってる。それなのにどうして。女1早く帰ってください。

男2 何があるんですか。

女1 それは言えません。とにかく帰ってください。

男3が入ってくる。

男3 いらっしゃいませ。

男2 どうも、どちら様ですか。

男3 迷ったんですか。

男1 道が難しくて少し迷った。

男3 本日は車で来られましたか?

男2 ええ、撮影の機材もありましたので車で来ました。

男3 遠いところからわざわざありがとうございました。

男1 失礼ですが、あなたは一体。

女1 だから早く帰ってって言ったのに。

男1どうして。

男3 名乗るのが遅くなりまして申し訳ありません。私はこの町で地域おこしをしているものです。どうですか、自然に囲まれたこの町。静かで温かくて、都会にはないものがたくさんあります。

男2 確か電話で取材依頼を申し込んだときに対応をしてくださった方ですよね。

男3 そうです。この劇場の事を取り上げていただけるとのことで誠に感謝いたしております。痛ましい事故ではございまし たが、こうやってわざわざ取材に来ていただけるだけで亡くなった方も報われるというものです。

男1 あと30分か20分で警察が来ると聞いています。それはどうしてですか?

男3 何しろこんな田舎ですから、いまだに原因がわからないとなるとこの劇場を使ってくださる方がいなくなりますから、警察の方で定期的に調べていただいているのです。まだ時間はありますからどうぞ、取材していってください。

男1 警察は俺たちを捕まえるために来ると聞いたのですが、それは本当ですか。

男3 そこの女が言ったのですが?

男1 ええ、そうです。

男3 その女のいう事は、間違いなく嘘です。そいつは亡者です。どうか惑わされないように。

女1 私が亡者だったら、お前は道化だ。

男3 まぁ気にしないでください。早くここから帰るんだ。

男2 一つ質問してもいいですか。

男3 なんなりと。

男2 本当に事故はあったんですか。

男3 ええ、もちろんありました。

男2 誰が亡くなったんですか。

男3 それは個人情報の観点から言ってもお伝えすることができません。申し訳ありません。

女1 正直に言ったらどうだ。

男3 お前こそ人を惑わせるのはやめろ。

男1 どうして照明が落ちたんですか。

男3 それが不可解なことが多くて、それを今でも警察が調べているんです。ニュースご覧になられていますよね。

男1 ええ、もちろん。

男2 いつ起こったことなんですか。

男3 3か月前です。こちらもニュースで報道されているとおりです。

女1 今度は誰を殺すんだ。

男2 殺す?事故じゃなくて事件なんですか。

男3 いいえ、事故です。安心してください。

男2 わかりました。一つお願いがあるんですが。

男3 はい、なんでしょうか。

男2 警察の方に取材してもよろしいでしょうか。

女1 手遅れになる。

男3 それはもちろん。ぜひ取材してください。警察の方も喜びます。

男1 警察が喜ぶ?

男3 ええ、大変な喜びようだと思います。

男2 どうしてですか?

女1 今すぐこの町から出て。

男1 しかし、警察の方に取材ができるのはこちらとしても願ったり叶ったりなんだ。取材が終わったら帰る。それでいいだろ。

男3 すぐとは言わずゆっくりしていってください。

男2 あ、すみませんちょっと車に機材取りに行ってきます。

男2 客席の方からはける。

男3 この町にはおいしい食べ物もありますし、温泉もありますから。ぜひ楽しんでいってください。私も一度失礼します。また何かありましたら呼んでください。

男3はける 男5現れる

男5 人が人であるのはどうしてなのか。ここに存在するのはどうしてなのか。

女1 君は誰?

男5 迷ったんだ。

男1 どこから。

男5 人生に。

男1 それは大変だ。

男5 開いてる席に座る。

女1 あーあ。もう駄目だね。

男1 何が駄目なんだ。

女1 あなたたち死ぬよ。

男1 なんで俺たちが死ぬんだ。

女1 警察が来るよ。

男1 警察が俺たちを殺す意味がわからん。

女1 自分の持ってる価値観だけで生きてるといつか危ない目にあうよ。そのいつかがこれからやってくるんだけどね。

男1 どういう事かさっぱりわからないな。

女1 あと20分もすればわかるよ。

男2帰ってくる。

男2 ………

男1 どうしたんだ。

男2 車、劇場の前に止めましたよね。

男1 そうだ。それがどうした。

男2 ないんです。

男1 は?

男2 だから車がないんです。

男1 お前、冗談言って俺を驚かす気か?

男2 ………

男1 本当なのか?

男2 本当です。

男1 何が起きてるんだ。

女1 だから死ぬんだって。

男2 死ぬ?誰が?

女1 あなたたちが。

男2 どういうことなんですか。

女1 車、無くなったよね。

男1 それとどういう関係があるんだ。

女1 あいつらに持っていかれたの。

男2 あいつらって誰ですか。

女1 さっきいたあの男とその仲間の事。

男2 あの人確かに怪しかったけど。

男1 俺たちを殺す意味がわからない。車は確かになくなったようだが。

女1 この町はそういう町なの。

男1 どういう町なんだ。

女1 あなたたちが住んでる都会とは違うっ てこと。

男2 何がどう違うんですか。

女1 人食いだよこの村は。

男1 人食い?

男2 人が人を食べるんですか。

女1 人が人を食べるわけじゃない。あいつらは人じゃない。さっきの男は道化だ。

男1 君は亡者なのか。

女1 そうだね。亡者であってる。

男2 この町には誰が住んでるんですか。

女1 ここに町なんてない。

男5立ち上がる。

男5 静かにしてください。

男2 車をどこにやったんですか。

男5 知りません。

女1 車はもうこの町にはない。そうだよね。

男5 それはわかりません。

男1 あなたは誰なんだ。人間なのか。

男5 はじめまして。人間です。

女1 人が人を食うわけがない。お前たちは人間じゃない。

男5 人を食べたりするわけがないじゃないですか。あなたはいつまでここにいるんですか?

女1 私にもわからない。

男2 自分たちも食うんですか。

男5 食べませんよ。

女1 道化が。

男1 ありがとうございました。おい、帰るぞ。

男2 え、わかりました。

男1 あそこに車を止めたらだめだったんですね。申し訳ない。車は警察署の方ですか?

男5 警察署はありません。。

男1 冗談はそれぐらいにしといてください。

男5 冗談じゃありません。

女1 もう手遅れだ。

男2 何が手遅れなんですか。

女1 もう帰れない。

男5 帰るんですか。

男1 慌てて客席のドアを開けに行く。しかし開かない。男3が現れる

男1 くそ、どうして開かない。

男3 諦めてください。

男2 何が目的なんですか。

男3 この劇場で事故が起きた。でも原因がわからない。そういう噂を流したのはあなた方をここに呼ぶ為だったんです。

男1 俺たちを呼ぶために事故を起こしたのか。

男3 事故は起きていません。事件も起きていません。

男2 騙したんですか。

男3 騙した?とんでもない。あなた方がしたことに比べれば可愛いものです。

男1 俺たちが何をした。ただのカメラマンと記者だぞ。

女1 そういう事か。

男3 そうです。あなたにも関係することです よ。思い出してください。

女1 私を殺したのはこいつらか。

男3 正解です。

男2 待ってください。人を殺したことなんてないですよ。ましてやあなたの事なんて知らない。知らない人間をどうやって殺すんですか。

女1 2年前の一つの事件。あなたたちが取材して記事にしたあの事件。

男1 2年前…女1覚えてないの。ひどいな。

男2 恋人を殺した女の事件…

男3 そうです。その事件です。場所は覚えていますか?

男1 ……ここなのか。

女1 私は殺してない。

男2 結局証拠は見つからず無罪でしたね。

女1 無罪判決が下りる頃には、もうこの世にいなかったんだけどね。

男1 ここはあの事件の場所。男が死んでいた場所だというのか。

男2 でも、2年前にこんな劇場はなかった。

男3 あなた方は人殺しだ。

男1 違う、殺してなんかない。仕事だったんだ。

男3 私もこれが仕事なんです。

女1 もう手遅れだよ。

男3 この劇場は幻です。あなた方をおびき寄せる幻です。

女1 ここに町なんてないの。

男3 何もない山奥なんです。人が一人殺され た。いや、彼女も含めると2人ですね。

男1 俺たちをどうするんだ。

男3 死んでもらおうと思います。

男2 でも、そんなことしたらあなただって罪を背負うことになる。

男3 私は構いません。

男2 どうしてですか。

女1 ここに人間はあなたたちしかいないの。

男1 俺たちだけ?でもこの人は?

女1 ただの道化。人じゃない。人の形をしているだけ。

男3 そういう事です。だからあなたたちの命を奪ったところで私は罪になりません。あなたたちは山奥に遭難して死んだ。世間でもそう報じられるだけです。年間300人程の人が山で亡くなっています。誰の関心をひかないままあなたたちは死ぬんです。

女1 早く逃げないからこうなったんだ。手遅れなんだ。

男5 もうじき警察が来ます。

男1 本当に殺してないのか。

女1 何が?男1恋人を殺してないのか。

女1 殺してない。それなのにあなたたちが私が犯人かのように取り上げたから世間の人から殺人者のように思われた。だから私は死んだの。あなたたちに殺されたの。

男2 どうして死んだんですか。自殺ですか。

女1 そうよ。あの人もいないし。もう生きてる意味が分からなくなったから。

男2 そうですか。

男3 お前たちのせいで人が二人もなくなった。その事実は変わらない。

男2 証拠不十分だっただけで、本当のところは無罪かわからない。遺族の方はそう思ってたんですね。

女1 誰の遺族?

男2 あなたが殺した恋人の遺族ですよ。

男1 もう終わりにしよう。

男3 終わるのはお前たちだ。もう死ぬんだから。

男1 俺たちは、お前たち二人を探すためにここに来たんだ。

男2 もうやめにしませんか。

男3 何を言ってるんだ。

男1 恋人を殺しているところを俺たちに見られた。俺たちが取材していたのはあなたの恋人だった。最近誰かに狙われてる。近々殺されるかもしれない。警察に相談したけど信じてもらえなかった。だから記者であるお前に取材という名目で暫くそばにいてくれないか。俺はあいつに頼まれていた。あいつは俺の幼馴染でな。お前たちに殺されるところも観ていた。

男2 その後、あなたたちは自殺を装って逃げた。それは証拠を持っている僕たちが生きてるからだ。

女1 私は本当に死んでる。

男1 俺たちを恨んでるんだろ。俺たちが証拠を持っていなかったら生命保険やらな んやらで大金持ち、今頃良い暮らしをしていたはずなのに。だから俺たちを殺そうとしたんだろ。俺たちのせいで計画が狂って、顔も名前も変えてこんな辺鄙な町にすまなくちゃならなくなったからな。

女1 全部お見通しってわけ。

男3 ここで殺せばいいだけだろ。さっさとやっちまうぞ。

女1 そうね。あなたたちの言う通りよ。でもここで死ぬのは変わらない。

男1 それはどうかな。

男4 入ってくる。手には拳銃を持っている。

男4 手を挙げろ。あげてもあげなくても撃つけどな。

男1 いや、それはダメだろ。

男4 お前、こち亀読んでないのか。

男2 なんでこち亀の話が出てくるんですか。

男4 両さんがどんだけ発砲してるか知ってるか、284発も撃ってる。俺が一発撃つぐらい問題はない。誰を撃てばいい。

男1 お前、漫画と現実を一緒にするな。

男4 冗談に決まってるだろ。

男5 あなたは誰ですか?

男4 こう見えても警察だ。

女1 警察がどうしてここに。

男4 お前たちの行方を追ってたんだよ。あ、お前たちの車、ご愁傷様な。

男2 撮影機材が……

男1 車のローンが……

男4 警視庁から感謝状出るから、それでチャラってことで。

男1 チャラにできるか。

男4 とにかくお前たちはもうここで終わりだ。おとなしくついてきてもらおうか。

女1 終わらない。終わらせられるぐらいだったら自分で終わらせる。

女1拳銃で頭を打とうとする。

女1 死んでもいいの?

男4 それは困る。

女1 それじゃ見逃して。

男4 それも困る。

女1 それじゃ死ぬよ。

男4 だめだ、それは困る。

女1 それじゃ見逃して。

男4 それも無理だ。

女1 どうするの。

男4 拳銃をこっちに渡して、諦めてくれ。

男5 もう諦めよう。

男4 お前は素直でいい奴だ。そうだ諦めろ。諦めが肝心だよ人生。

女1 私はあきらめない。あんな塀の中で死ぬまで過ごすなんてできない。

男3 俺は何も知らないんだ。殺したこともお前たちの事も。だから俺は塀の中から出られる。俺が関わった証拠はないんだろ。

男2 あなたも共犯者だということはわかっていますし、証拠もあります。二人仲良く塀の中で罪を償ってください。あなたたちが罪を償ったところで死んだ人は生き返りません。

女1 今、ここであなたたちを殺して逃げれば捕まらずに済むよね。

女1拳銃を男1に向ける。

男1 その中に何発球が入ってるんだ。

女1 知らない。でも、ここにいる全員を殺すには十分なんじゃない?

男4 お前たちを見逃せばいいのか。

女1 私だけでいい。この人は好きにして。

男3 おい、俺を見捨てるのか。

女1 先に見捨てたのはあんたでしょ。

男1 おい、いいのか。

男4 いいさ、ここで誰かが死ぬよりはな。

男2 せっかくここまで追い詰めたのに。

男4 死んだら意味がないさ。生きることを最大級の目的にするんだ。

女1 それじゃ見逃してくれるの。

男4 ああ、その代わり誰も撃つなよ。

女1 わかった。それじゃ。

男3、女1の拳銃を奪う。

女1 何するの。

男3 逃げるのは俺だ。お前は捕まればいい。

女1 臆病者のくせに粋がるな。

男3 うるさい。ずるい女め。

男5 二人とももう無理ですよ。

男4、女1に銃を向ける。

女1 どうして私に。

男4 撃つなら撃てばいい。早く撃て。

男3 いいのか?殺して。

男4 好きにすればいい。

女1 さっきと言ってることが違うじゃない。

男3、女1に向かって銃を撃つ。しかし弾は出ない。

男4 残念ながら弾切れだな。

男3 お前、わかってたのか。

男4 もちろん。お前と違ってプロフェッショナルだからな。

男5 これで事件は解決ですね。

男1 ところで君は誰なんだ。

男5 僕ですか?昨日ここで死んだんですよ。

全員 えーっ!

男3女1崩れ落ちる。男4、手をたたいて雰囲気が変わる。

男4 はーい。ありがとうございました。

男2 お疲れ様です。

男1 ようやく終わったか。

女1 お疲れさまでした。ありがとうございました。

男3 長かったなぁ

男5 緊張した。

男4、なにやら電話をしている。

男4 あ、監督から、今映像確認してるって。問題がなかったからこれで撮影完了です。

男1 了解。いやぁしかし疲れたな。

男2 面白かったですけどね。

男1 そうか?ありきたりじゃなかったか。

女1 というかよくわからなかった。

男5 確かにそうですよね。なんで銃持ってるんだって感じだし。

男3 まぁ、映画なんだがらいいんじゃない?

男1 それもそうか。

男2 それにしてもこの劇場本当に不気味ですよね。

女1 わかる。本当に照明機材落ちてきそうだし、普段から使ってるのかな。

男3 この村自体、ほとんど人が住んでいなくて、あんまり使ってないって聞いたけど。

男1 幽霊とかでそうだもんな。年季が入ってる。

男4 誰にも使われなくなった劇場か、なんだか寂しいですね。

女1 昔はここもにぎわってたのかな。

男3 いわゆるバブルの頃は賑わっていたらしい。避暑地として利用されていて、休みになるといわゆるお金持ちたちが別荘に遊びに来ていたらしい。その金持ち相手にこの劇場で舞台なんかをやっていたって、さっき村長さんが言っていた。

男2 そうか、でもバブルがはじけて誰も来なくなってしまった。

男1 でもこうやって撮影に使われている。劇場にとってもこの村にとってもいいことなんじゃないか。最近多いじゃん、聖地巡礼的な。今回の作品もそうなればいいなって思うよ。

男2 いや、この作品でそこまでムーブメントを起こせるかはわかりませんが。

男4 でも、村の人は喜んでましたよ。実際この村は良いところだし。温泉もあってご飯もおいしい。

女1 でも、ここにたどり着くまでが大変なのよ。道もわかりにくいし、狭いし。バイクは通れないし。結構敷居が高いんだよね。家族連れの大きな車とかじゃかなり怖いし。

男5 確かにそれは言えてる。どんなにいい場所でも来るのが大変だとなかなか人は集まらない。

男2 僕たちも撮影がなかったら来なかったわけだし。仕方がないですよね。

女1 村に住んでいる人たちもそう言っていた。でも生まれ育ったこの村を捨てられないから死ぬまで住み続けるって言ってた。

男3 少し悲しい気もしますね。不便だということはわかってるのにその場所を離れられない。

男4 ある意味で呪いなのかもしれません。

女1 人は簡単に環境を変えられないんだよ。

男2 変化を恐れてる。

男1 変わることに伴う痛みが怖いんだ。

男3 だからこの村から離れられない。

男5 幸せなんですかね。

女1 幸せか不幸か、それを判断する物差しが壊れてるんだよ。

男2 それはどうして。

女1 慣れてしまうから。幸せでも不幸でも、人間は慣れてしまう。そうやって生きてるんだよ。

男1 君は今幸せ?

女1 幸せじゃない。でも不幸でもない。

男3 幸せって何だろう。

男5 宝くじの一等が当たるとか?

男4 宝くじに当たって人生を壊した人の話を聞いたことがあります。

男1 降ってわいた幸運と幸せは別物なのかもしれない。

女1 宝くじに当たるのと交通事故に会うのは、同じ運勢らしいよ。

男1 幸せと不幸は表裏一体なんだな。

男2 誰かを愛して、誰かに愛されることは幸せじゃないですか。

男3 くさいことを言う。

男4 それも瞬間的で刹那的なものかもしれない。

男5 愛もまた永遠じゃない。

男2 愛はきっと変化していくんだと思う。初めは結婚した奥さん。そして生まれて来る子供へと。子供が成長すればまた奥さんへと変わっていく。

女1 変わる前に失われた愛はどうなるの。

男5 失われた愛は元には戻らない。

男4 瞬間的で刹那的だ。

男2、パンっと手をたたく

男2 はーいありがとうございました。

男4 いや、映画を撮っている映画を撮るって難しいな。

男5 頭がこんがらがってくる。

女1 何が本当で何が嘘なのかわからなくなってくる。

男3 映画を撮る映画って斬新な気がするけどね。

女1 確かに映画の中じゃなんだか古ぼけた村の、使われなくなった劇場なんて言ってるけど、街中にある小さな小劇場だし。

男2 しかも最近できたばっかりの劇場だし。

男3 たしか今度ここで演劇祭があるんだろ。

男4 そうそう、この町で初めて行われる演劇祭なんだって。

女1 ほとんど新築じゃないこの建物。お客さんにばれないかな。

男5 映像をかなり加工して使うから大丈夫だろって監督が言ってたよ。

男2 あ、今監督が映像確認中だそうです。これで問題がなかったら終了です。

男4 これが終わったらやっと家に帰れるよ。

男5 誰か待ってるのか。

男4 愛すべきウーパールーパーが待ってるよ。

女1 ウーパールーパーってかわいいの。

男2 ウーパールーパーって食べれますか。

男3 ウーパールーパって何ですか。

男1 ウーパールーパって生きてるんですか。

男5 ウーパールーパって死にますか?

女1、パンっと手をたたく。

女1 お疲れさまでした。

男2 お疲れさまでした。

女1 監督が映像を確認してます。少し待ってください。

男5 もう何がなんだかわからなくなってきた。

男4 映画を撮ってる映画を撮ってる映画ってもうなんですか。複雑すぎますよ。

男1 フィクションと現実の境目がわからなくなってきた。

男5 面白んですかね。この映画。

男3 監督は面白いって思ってるんだろうな。

女1 新しいよね。

男2 新しさはあります。

男5 新しいんですか。

男3、パンっと手をたたく

男4 ちょっと待ってください。今のはなんですか。

男3 はーい撮影終了です。

男5 お疲れさまでした。

男4 待ってください。何を取ってたんですか。

女1 映画を撮ってる映画を撮ってる映画を撮ってる映画を撮ったんだよ。

男4 今のも映画なんですか。

男5 何言ってるんですか。映画の撮影ですよ。

男4 さっきので撮影は終わったんじゃないですか。

男3 だから映画を撮影している様子を撮った映画を撮影している映画を撮影してる映画を撮影したんだよ。監督が映像を確認してるんで少し待機です。

男4 監督は何人いるんですか。

男2 何言ってるんすか。監督は一人だけですよ。

男5 疲れてるんですか。

男1、パンっと手をたたく。

男1 はーいお疲れさまでした。

男4 待ってください待ってください。

男5 どうしたんですか。

男4 今のも撮影ですか。

女1 そうだよ。

男1 あ、監督が映像確認してるみたいです。ちょっと待ってください。

男4 今は撮影中ですか。

男5 撮影は終わった。

男2 今は待機中です。

女1 どうしたの。

男4 フィクションですか。

男1 フィクションだよ。

男2 フィクションです。

男3 フィクションに決まってる。

女1 フィクションかもね。

男5 フィクションだろうね。

男4 現実ですか。

男3 現実。

男2 現実。

男1 現実。

女1 現実。

男5 現実。

男4 もう何が何だかわからない。

男1 あ、監督から映像確認終わったそうです。

男2 ようやく終わりましたね。

男5 大変でしたね。

男3 お疲れさまでした。

女1 さあ帰りましょう。

男1、男2、男3、女1帰ろうとする。男4、手をパンっとたたく。

男4 お疲れさまでした。